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レバレッジの芸術:資本構成と企業価値
Chapter 7. レバレッジの芸術:資本構成と企業価値
企業はどれだけ借金をすべきでしょうか?企業の価値を最大化する「完璧な」負債と自己資本の比率は存在するのでしょうか?今日は、企業戦略の核心である 資本構成 (Capital Structure) について学びます。
負債(レバレッジ)の使用は「諸刃の剣」のようなものです。株主の収益を増幅させることもあれば、企業の「船」を沈めるリスクを高めることもあります。財務戦略がいかにして最適なバランスを構築するのか、その仕組みを見ていきましょう。
1. モディリアーニ=ミラー (MM) 理論:基礎
1958年、フランコ・モディリアーニとマートン・ミラーは、「完全市場(税金や倒産コストがない市場)」において、 ==「企業の価値は、その資本構成とは無関係である」== ことを証明し、金融界に衝撃を与えました。
MM 命題の比較
| シナリオ | 企業価値 | 結論 |
|---|---|---|
| **ケース1:税金なし** | 負債に関わらず一定 | パイの切り方でパイ全体の大きさは変わらない |
| **ケース2:税金あり** | 負債が増えるほど増加 | **支払利息の節税効果**が価値を生む |
2. 節税効果 (Tax Shield) の力
なぜ現実の企業は借金を好むのでしょうか?それは、政府が「支払利息」を税金計算上の費用として認めてくれるからです。
企業が税引前利益 (EBIT) を上げる
税金が引かれる「前」に利息が支払われる
全額自己資本の企業に比べ、支払う税金が少なくなる
この節税額の現在価値が、そのまま企業価値に加算される
==レバレッジ企業の価値 = 無レバレッジ企業の価値 + 節税効果の現在価値==
3. トレードオフ:恩恵 vs リスク
借金が節税に良いなら、100% 借金にすれば良いのでしょうか?そうはいきません。 財務的困窮コスト (Financial Distress Costs) があるからです。
最適点の探求 (静的トレードオフ)
節税の恩恵と倒産のリスクの絶妙なバランス。
- トレードオフ: 借金を増やすほど節税効果は高まりますが、同時に倒産する確率も上がります。 最適資本構成 とは、借金の限界的恩恵と、倒産の限界的コストが一致する点のことです。
4. 財務レバレッジ:増幅器
レバレッジは自己資本利益率 (ROE) を増幅させます。
| パフォーマンス | 無レバレッジ (ROE) | レバレッジあり (ROE) |
|---|---|---|
| 好況時 | 10% | 15% (増幅) |
| 不況時 | 2% | -5% (打撃) |
レバレッジの罠: レバレッジは順風満帆な時は素晴らしいですが、わずかな逆風を大惨事に変えてしまうことがあります。安定したキャッシュフローを持つ企業だけが、重い負債を背負う権利を持つのです。
5. 結論:未来をデザインする
資本構成を選択することは、 ==「資本コストを最適化し、企業価値を最大化すること」== です。優れたマネージャーは、最高の成長を遂げるために、企業がどれだけの圧力(負債)に耐えられるかを正確に見極めているのです。
📚 セウン教授の厳選ライブラリ
- [企業財務の理論] - ジャン・ティロール: 企業の資金調達におけるインセンティブと構造を厳密に分析。
- [コーポレート・ファイナンスの実務]: 現実の CFO がどのように借入れの意思決定を行うかを解説した実践ガイド。
- [ウォール街のランダム・ウォーカー]: 負債に対する市場の認識が株価にいかに影響するかを考察。
次回は、 「配当政策」 — 苦労して稼いだ現金を、どれだけ株主に還元すべきかという企業の決断について学びます。